【東北への想い】就職活動で東京駅を使う

東北への想い

大学3年の1月。就職活動の解禁は3月1日だが、多くの大学生は就活準備という名目のもとスーツ姿で動いている。僕もそのうちの一人で、せっかくの日曜日にネクタイを締めて東京駅が最寄りの企業に向かっていた。


JR新宿駅から中央線で東京駅に到着する。東京駅も大きな駅だが、新宿ほどは複雑でない。中央線のホームから近い丸の内口とは反対側の、八重洲中央口を目指して、駅構内を歩いた。

しばらく歩くと新幹線の乗り場が見えてくる。東海道新幹線は青、東北新幹線は緑色がトレードマークだ。もちろん、僕の目に青色は入らない。視界には入っても何ら興味はない。僕はひたすら目を引くグリーンの新幹線のアイコンを見ていた。「やまびこ 盛岡行き」とかかれた電光掲示が目に入る。

「これに乗ったらすぐ東北に行けるのか。」
僕の心の中はそれでいっぱいだった。あと30分もすれば堅苦しい就職活動のイベントが始まる。しかし、新幹線に乗り込めば、数時間で自分の好きな東北に行ける。


一瞬目を閉じて、新幹線からの車窓を想像してみる。30分もすれば、高層の建物は見えなくなる。1時間も乗っていれば雪もあるかもしれない。段々と周囲は山になり、トンネルの間隔が短くなる。そして、ゆっくりとホームに入った新幹線を降りると、凍える外気が服の中に入ってくる。それがまた嬉しいのだ。深く深呼吸をしても異物が肺に入ることはない。体中が澄み渡る。

そんな妄想をしてみる。が、無駄だ。ここは東京都千代田区、日本のど真ん中のそのまた中心である。都と鄙、まさに真逆である。鄙という言葉は貶めるニュアンスで使われることがあるが僕はそのような意味では使わない。むしろ都の方が悪いイメージを持っているとさえ思っている。

今、東北に行ったところで何になるのか。目の前のことから目を背けて行っても、そこには自分の求めている東北はないだろう。東北は本当に立ち直れないことがあった時、慰めてくれる場所だ。また、何かを頑張った時に癒しを与えてくれる場所でもある。何もせずにただ、目の前のやるべきことから逃げて東北に行ってもお金と時間の無駄だ。今、東北に行くのは、夢を追って家を飛び出た若者が、夢半ばに実家に帰るような屈辱感、恥ずかしさがある。

夢をかなえると決めた東京で精いっぱい奮闘してから、東北へ行くことにしよう。また、その途中の休憩で東北に癒しをもらいに行こう。まずは現実のやるべきこと。まずは就職活動だ。僕は再び歩き始める。ネクタイをきつめに締め直して、東京駅を後にした。

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