2020.1.12指導者講習会「スポーツ指導における暴力撲滅とコンプライアンス」

セミナー・勉強会

2020年1月12日の午後、ボーイズリーグ神奈川県支部の賀詞交歓会の前に指導者講習会が開催された。

講師は東京にある清水法律相談所の弁護士、溝内健介先生がつとめてくださった。今までいくつかの指導者講習会に参加したが、野球のセミナーを弁護士の方がしてくださるのは初めてで、とても面白かった。

弁護士と聞いて難しい話が続きそうな印象だったが、溝内先生は東大でも野球をつづけられた方で、卒業後も審判として野球に携わっており、野球に精通している方の話という感じでとても興味深かった。

この記事では、忘れないうちにその内容を記事にしたいと思う。

前回のボーイズリーグ指導者講習会についての記事

コンプライアンスとは

コンプライアンスとは、法律、規則、倫理といった規範(社会のルール)を順守することだそうだ。

コンプライアンスという言葉は最近特にニュースでよく聞くようになった。何かと言うとコンプライアンス。

コンプライアンス。何か圧迫される印象のある言葉だが、先生によると会社や周囲から押し付けられるものではなく、自分のことを自分で守るということなのだ。

スポーツ指導における暴力・体罰の問題

法律の観点から見た指導現場の暴力・体罰の問題の説明があった。もし仮に、教え子を殴ってしまったとしよう。

暴力という行為を法律観点から見た場合、民事上の問題刑事上の問題に分けられる。民事上の問題では不法行為という扱いで損害賠償が課せられる。相手に重大な障害が残ってしまったりした場合、その額は○○○○万円~億にもなる場合があるそうだ。刑事上の問題では、傷害罪や暴行罪という犯罪になってしまう。

先生の話では、近年の暴言や暴力問題はそこまでに至る過程が全て無視されて、数十秒から一分の動画の暴力シーンだけが出回ってしまうというのが一つの特徴だそうだ。

「家族や自分を犠牲にして野球につぎ込んできた時間や労力がその一瞬で水の泡になってしまう。だからそこはぐっと我慢して…」といったお話が印象的だった。


しかし、先生の仰っていたが体罰・暴力という問題はだいぶ少なくなってきた印象だ。個人の感覚だが、体罰がニュースになってからもう10年近く経っているのではないだろうか。

一番衝撃的だったのは、大阪桜宮高校のバスケ部の事件だった。
○事件の内容はこちら


近年、以前として問題になるのは、故意の暴力よりも、過失による指導者の責任の問題なのだそうだ。

スポーツ指導における指導者の責任

怪我をしたのは選手の自己責任
ではなく、指導者の責任が問われるのはなぜだろうか?

それは、
児童・生徒は、危険を予期し、これを回避する能力が、指導者(大人)と比べて低いと考えられているため、指導者(大人)の側に、危険を予期し、これを回避するための配慮(安全配慮)が求められる」(講習会資料より引用)
からなのだ。

子どもに対してどれだけ注意深く事故を防ぐように準備しろと言っても、そこには限界があるのだ。だからこそ、大人がある程度は手出しをしなければいけない。

「気をつけろ」と言ったのに、子どもの注意不足で勝手にケガをした、なんてことは許されない。それは過去の判例も裏付けている。

ここで指導者が気を付けなければいけないのは、子どもの年代によって、危険を予期する力や回避する能力は変わるということだ。

例えば、高校野球では三か所打撃のネットの設置はすべて部員が行う。しかし、中学野球でそれをやると、何回かに一回はネットの枚数や設置個所に不備のある場合がある。特にうちのように毎回違った環境で練習する場合はなかなか慣れるのが難しい。

子どもの能力を適切に見きわめて、どこまで指導者が手出しをして、どこからは見守るべきなのかを考えることが大切だと思う。

先生のお話が終わったあと、この点について質問させていただいた。講習会の中で先生は「子どもの危険予期・回避能力がどのくらいなのか指導者がどれだけ手助けするかは天秤の関係にある」と仰っていた。

安全性を確保できない、また、練習の効率性を極端に下げてしまう場合はまた別だが、基本的には練習の準備は子どもがやるのが良いのではないかというのが自分の考えだ。それは、その方が準備・確認の力が養えると思うから。

だが、プレー以外の事故によるケガは絶対に防ぎたい。どこまで選手に任せてどこからは指導者が手助けするか、この最適なバランスの見つけ方、決め方は何処にあるのかというのが僕の質問だ。

これに対して先生からは、
何も考えずに子供にすべてを押し付ける人が良くない。指導者が危険をしっかりと予測して、そのうえで子供に任せるのであれば問題ではない」と答えをいただいた。


あとは、現場でチームの選手がどれだけ危機管理ができるのかを見ながら、怪我は絶対出さないが選手の準備力、色々な意味での視野の広さを養えるバランスを探す必要がある。

指導者の安全配慮義務

指導者が選手の安全を守るために、具体的には何に気を付けなければならないのか。講習会では、施設・用具・実施方法・指導対象者(選手)の四つが紹介された。

どのような指導を行うかは、事故を防ぐという観点から見れば主にこの四つのことに気を付けながら決める必要があるのだ。

今回の講習会は野球に限らず様々なスポーツの指導の最中に起こった事故に関する裁判の判例が紹介され、それをもとに様々な考え方が説明された。

その中に、熱中症に関する事例が出てきた。このあたりは文章にしてアウトプットするのが非常に難しい。チームの指導者向けには、後で限定公開の動画にして共有したいと思うが文章では省略しようと思う。

おわりに

最後にはチーム内部から苦情が上がった場合の対応についてのお話があった。まずは謝罪や説教などの対応の前に、時間をおいて事実確認をすることが何よりも大切だというお話があった。

汚職疑惑のかかった政治家がよく、「只今事実確認をしておりますのでお答えできません」と言っているのをよく見かけるが、あれは不誠実に見えて正しい対応だということだ。このことは覚えておきたい。


この記事の冒頭にも書いたが、コンプライアンスとは自分のことを自分で守るということなのだ。自分のチーム・選手、また自分自身を守るためにも様々な可能性を予測して、現場での指導にあたっていきたい。

このことは必ず野球の競技の中にも活きてくる。

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